純文学・芥川賞のすすめ~初心者おすすめ編~【コンビニ人間・火花もkindleで読める!芥川賞作品・厳選10選】
読書初心者にもおすすめの純文学・芥川賞受賞作品まとめ【kindleでも読める厳選10選】
太陽の日照時間も少しずつ短くなってきて、朝晩の冷え込みもだんだん厳しくなってきましたが、秋といえば皆さんは何をイメージされますか?
食欲の秋、行楽の秋、スポーツの秋、読書の秋、睡眠の秋、等々。
秋から心機一転の思いで、趣味やスポーツを始める人も多いと思います。
そこで今回は「読書の秋」にちなみ、秋の夜長に読みたい純文学小説・歴代芥川賞受賞作10作品を紹介します!!
芥川賞とは?・・・
1935年に文藝春秋を創業した小説家・劇作家の菊池寛が、友人であった作家・芥川龍之介と、脚本家・映画監督でもあった直木三十五の業績を記念して創設したもので、純文学の新人作家に贈られます。ちなみによく比較に出される直木賞は、エンターテインメント(娯楽)小説の中堅・ベテラン作家に贈られる賞です。
ではそもそも、純文学とは何だろう?と思われる方もいると思いますが、簡潔に説明するとすれば、娯楽性よりも芸術性や哲学的な価値観に重きを置いた小説が純文学であると定義されています。
日本の純文学を守るための賞というと、少し堅苦しいイメージになってしまいますが、受賞作品は、すべてが取っつきにくいものばかりでなく、読書初心者でも純粋に楽しめる作品も数多くあります!
そこで今回は、歴代の芥川賞受賞作品の中から、初心者でも読みやすく、、個人的に特におすすめしたい作品・厳選10選をご紹介します。
文学入門者に贈る芥川賞受賞作・厳選10選まとめ
1.コンビニ人間 /村田 沙耶香 (著)
内容
第155回(2016年上半期)芥川賞受賞作。
36歳未婚女性、古倉恵子。大学卒業後も就職せずに始めたコンビニバイトは18年、これまで彼氏なし!
オープン当初からスマイルマート日色駅前店で働き続け、変わりゆくメンバーを見送りながら、店長は8人目。日々食べるのはコンビニ食、夢の中でもコンビニのレジを打ち、清潔なコンビニの風景と「いらっしゃいませ!」の掛け声が、毎日の安らかな眠りをもたらしてくれる。仕事も家庭もある同窓生たちからどんなに不思議がられても、完璧なマニュアルの存在するコンビニこそが、私を世界の正常な「部品」にしてくれる―。
ある日、婚活目的の新入り男性、白羽がやってきて、そんなコンビニ的生き方は「恥ずかしくないのか」とつきつけられるが……。
普通の人生とは何かに
鋭く切り込む刃の嵐!
コンビニ経験者必読の
芥川賞受賞作!!
おすすめポイント
多数派こそ正義であるという世間の価値観への問題提起的作品。コンビニ店員を社会の底辺だと軽蔑する人と出会う中で、普通とは何かを問う本作。
独特な語り口のストーリーと人間観察がシュールで、どこか皮肉めいて、それが妙に面白い。誰にも迷惑をかけていないのに、少数派というだけで、世間からは敗北者のようなレッテルを貼られる。しかし本当にそうなのか?
多数派の価値観、幸せ、夢、現実。さまざまなものを含めた物語は、普段小説を読まない人でも面白く感じてしまう、不思議な魅力があります。純文学入門者の方でも身近に感じられるコンビニネタなので、読書初心者にもおすすめしたい作品です。興味のある方はぜひ。
2.パークライフ/吉田修一 (著)
内容
公園にひとりで座っていると、あなたには何が見えますか?
スターバックスのコーヒーを片手に、春風に乱れる髪を押さえていたのは、地下鉄でぼくが話しかけてしまった女だった。なんとなく見えていた景色がせつないほどリアルに動きはじめる。日比谷公園を舞台に、男と女の微妙な距離感を描き、芥川賞を受賞した傑作小説。(BOOKデータベースより)
現代の東京の空気を
小瓶に詰め込んだ
吉田流ユーモア小説
おすすめポイント
東京の今と、その空気を切り取った「日常」という名のユーモア小説。ストーリーの起伏や、物語に大きな展開がないのに、なぜか不思議と引き込まれてしまう。そんな魅力をもった小説です。
吉田修一といえば、青春群像劇の「パレード」を思い出す人も多いと思いますが、本作は氏の原点ともいうべき名作小説です。芥川賞受賞作の中でも、特に読みやすい小説なので、純文学なので敬遠している方にもおすすめしたい作品です。
3.火花 /又吉直樹(著)
内容
お笑い芸人二人。奇想の天才である一方で人間味溢れる神谷、彼を師と慕う後輩徳永。笑いの真髄について議論しながら、それぞれの道を歩んでいる。神谷は徳永に「俺の伝記を書け」と命令した。彼らの人生はどう変転していくのか。人間存在の根本を見つめた真摯な筆致が感動を呼ぶ!「文學界」を史上初の大増刷に導いた話題作。(BOOKデータベースより)
哀れで愚かで愛しい
お笑い芸人の生きざまを見よ!
又吉直樹の長編処女作。
おすすめポイント
又吉直樹の小説を初めて読んだのは「東京百景」という自伝的エッセイだった。その中で感じたのは、彼が芸人ではなく小説家であるという印象。なぜ彼は芸人をやっていて、作家でないのか不思議でならなかった。それほど東京百景は感動的だった。そんな彼がようやく長編小説を書いた。それが火花。
個人的な感想になるが、私は又吉直樹が書いた小説に出てくる女性が好きだ。献身的で母性的で、男性を優しくそっと支える。その背後に悲しい過去や、消せない運命があったとしても。
火花は純文学としても素晴らしく、又吉直樹にしか描けない物語になっており、特に人物に厚みがあるので、ストーリーに幅が出て独特の深みがあります。次回作も待ち遠しいですが、まずは本作を読んでほしいです。個人的には東京百景もおすすめです。
4.スクラップ・アンド・ビルド /羽田圭介 (著)
内容
「早う死にたか」毎日のようにぼやく祖父の願いをかなえてあげようと、ともに暮らす孫の健斗は、ある計画を思いつく。日々の筋トレ、転職活動。肉体も生活も再構築中の青年の心は、衰えゆく生の隣で次第に変化して…。閉塞感の中に可笑しみ漂う、新しい家族小説の誕生!第153回芥川賞受賞作。(BOOKデータベースより)
若者と老人の
リアルな介護の現実から展開する
スクラップ&ビルド!!
おすすめポイント
老人と若者を中心にしたストーリーは、その根底に介護が抱える問題や尊厳死などの重いテーマを掲げているが、本作の主題はそれとは別にあって、それは若者と老人の二人の生き方を読み解くところにあるように感じた。
二人の生き方の中にどんなスクラップ(破壊)とビルド(創造)があるのか。だれもが将来直面する、老いの現実。人の最後の在り方とは何か。その日を迎えるまでに、私たちは何ができるのか。いろいろと考えさせられる作品です。文章はさっぱり目なので、比較的読みやすく書かれています。読書初心者でもサクッと読めると思います。
5.きれぎれ /町田康 (著)
画像出典:Amazon.co.jp
内容
絵描きの「俺」の趣味はランパブ通い。高校を中途で廃し、浪費家で夢見がちな性格のうえ、労働が大嫌い。金に困り、自分より劣る絵なのに認められ成功し、自分が好きな女と結婚している吉原に借りにいってしまうが…。現実と想像が交錯し、時空間を超える世界を描いた芥川賞受賞の表題作と他一篇を収録。(BOOKデータベースより)
現実と白昼夢の狭間で奏でる
小説という形のアドリブ演奏
おすすめポイント
現実をもがきハムレットのように運命に抗おうとする主人公。前進しているのか後退しているのかさえ分からないまま、悶え苦しむ白昼夢のようなストーリー。人の思考回路をそのまま文章に落とし込んだような物語は、一見すると難解に思えるが、読み進めていくうちに、自然とそれを受け入れていく不思議な感覚に陥る。
夢か幻か、現実か空想か。その意識の狭間で垣間見る人間の不可思議な思考回路と巨大な妄想力。ロックでパンクで摩訶不思議な人間の思考を、文書で初めて表現したと評される本作。王道とはひと味違うなにかを欲している人は、こちらの小説をおすすめします。
6.苦役列車 /西村賢太 (著)
画像出典:Amazon.co.jp
内容
劣等感とやり場のない怒りを溜め、埠頭の冷凍倉庫で日雇い仕事を続ける北町貫多、19歳。将来への希望もなく、厄介な自意識を抱えて生きる日々を、苦役の従事と見立てた貫多の明日は―。現代文学に私小説が逆襲を遂げた、第144回芥川賞受賞作。後年私小説家となった貫多の、無名作家たる諦観と八方破れの覚悟を描いた「落ちぶれて袖に涙のふりかかる」を併録。(BOOKデータベースより)
自伝的小説から紡ぎだされる
もたざるものの魂の叫び
おすすめポイント
環境に恵まれず育った、決して救われることのない哀れな男の物語。しかし自分自身と向き合う中で紡がれる言葉は、読み手の心に深い爪痕を残します。
読後の感想としては、誰にも媚びないストイックな内容に、驚きの嵐でした。小説とは、違う人の人生を体験できるといわれますが、まさにこういう小説がそれに当てはまるのだと思います。アンダーグラウンドな世界を垣間見たい人におすすめします。
7.穴 /小山田浩子 (著)
画像出典:Amazon.co.jp
内容
仕事を辞め、夫の田舎に移り住んだ夏。見たことのない黒い獣の後を追ううちに、私は得体の知れない穴に落ちる。夫の家族や隣人たちも、何かがおかしい―。ごく平凡な日常の中に、ときおり顔を覗かせる異界。『工場』で話題を集めた著者による待望の第二作品集。芥川賞受賞作のほか「いたちなく」「ゆきの宿」を収録。(BOOKデータベースより)
日常の中に存在する
非日常の世界。
シュールでリアルな
不条理な世界。
おすすめポイント
登場人物たちが、ある穴を介して非日常の世界へと連れていかれてしまう。その世界観は変に誇張したものでなく、どこかリアルで不気味で気味が悪い。
読後の感想としては、人が抱く果てない不安感や絶望を、奇妙な穴を通じて上手く表現されている印象を受けた。芥川賞の少し難解で、哲学的なイメージを、いい意味で裏切ってくれる作品です。純文学の変化球的作品です。
8.abさんご /黒田夏子 (著)
画像出典:Amazon.co.jp
内容
史上最高齢・75歳で芥川賞を受賞した「新人女性作家」のデビュー作。蓮實重彦・東大元総長の絶賛を浴び、「早稲田文学新人賞」を受賞した表題作「abさんご」。全文横書き、かつ固有名詞を一切使わないという日本語の限界に挑んだ超実験小説ながら、その文章には、「昭和」の知的な家庭に生まれたひとりの幼な子が成長し、両親を見送るまでの美しくしなやかな物語が隠されています。第148回芥川賞受賞作。
小説の概念を超えた
日本語の韻律の美
おすすめポイント
日本語の言い回しの豊かさや、その独特の文体は、読み手を一瞬ひるませるが、深く読み進めると、その美しさや表現力に唯々圧倒される。さらっと読めるような物語ではないが、それゆえじっくり味わいながら読む事ができます。
ストーリーをじっくりと味わう小説というよりも、美しい詩や歌集を読んでいく楽しさ、心地よさがある小説です。一見すると難解に思えますが、決してそんなことはありません。素敵な詩集に出会った感覚で読んで見てください。素晴らしい世界が、そこには広がってくるはずです。
9.ひとり日和 /青山七恵 (著)
画像出典:Amazon.co.jp
内容
世界に外も中もないのよ。この世は一つしかないでしょ。
二〇歳の知寿が居候することになったのは、二匹の猫が住む、七一歳・吟子さんの家。駅のホームが見える小さな平屋で共同生活を始めた知寿は、キオスクで働き、恋をし、時には吟子さんの恋にあてられ、少しずつ成長していく。第一三六回芥川賞受賞作。短篇「出発」を併録。(BOOKデータベースより)
日常の取るに足らない場面を
美しく切り取るその描写力
おすすめポイントあえる
文章力とは、いったい何だろうか。そのひとつの見解として、気付いたら次のページを読んでいた、そういう不思議な力のある文章や物語のことをいうのではないだろうか。そこで必要になるのが、何の変哲もない日常の一場面を切り取ったときに、それでも読み手に興味をもってもらえるような文章力や表現力、そして発想力ではないだろうか。
前置きが長くなったが、本作「ひとり日和」は先述した日常の一場面が、様々なシーンで出てくる。そのひとつひとつが、なぜか読み手側がひきつけらる不思議な魅力がある。それこそ、小説の醍醐味ではないだろうか。心地よい文章の流れに身を任せて、ゆったりとした小説という名の物語の世界へ。気軽に読める純文学作品として、おすすめします。
10.春の庭 /柴崎 友香 (著)
画像出典:Amazon.co.jp
内容
第151回芥川賞受賞作。行定勲監督によって映画化された『きょうのできごと』をはじめ、なにげない日常生活の中に、同時代の気分をあざやかに切り取ってきた、実力派・柴崎友香がさらにその手法を深化させた最新作。
離婚したばかりの元美容師・太郎は、世田谷にある取り壊し寸前の古いアパートに引っ越してきた。あるとき、同じアパートに住む女が、塀を乗り越え、隣の家の敷地に侵入しようとしているのを目撃する。注意しようと呼び止めたところ、太郎は女から意外な動機を聞かされる……
(Amazon.co.jpより)
景色や匂いまで感じさせる
臨場感のあるストーリー
おすすめポイント
リアルな世界観と、本当にすぐそこに存在しているのだという臨場感が相まって、物語の説得力を大いに増している。そして、物語の主題は人ではなく、建物そのもの。その独特の世界観を巧みなストーリーで描き切った本作は、ある意味哲学的な内容だといえる。登場人物に感情移入するはずが、なぜか建物やその風景に感情移入してしまう。そんな妙な感覚に陥る不思議な魅力を持った作品です。面白くてサクッと読みやすいので、読書初心者にもおすすめします。
いかがでしたでしょうか?
芥川賞受賞作品も、すべてが堅苦しくて、取っつきにくいものばかりではないので、普段読書しない方にも、おすすめしたい面白くて読みやすいものも、まだまだたくさんあるので、また機会があったら紹介したいと思います。ではまた―